サプライチェーンの多様化とリスク管理から見る企業価値を解説

米中貿易摩擦やウクライナ侵攻、自然災害といった国際情勢の変化により、企業は調達先の分散化を急速に進めています。
 
日本企業は、地震や台風などの自然災害リスクに加え、円安による輸入コストの増加にも直面しており、サプライチェーンの見直しが必要な状況です
 
本記事では、サプライチェーンの多様化がどのように企業価値を与えるのか、投資家視点で分かりやすく解説します。
 

サプライチェーンの仕組みとは?

サプライチェーンとは、原材料の調達から製品が消費者に届くまでの一連の流れです。
 
「供給連鎖」とも呼ばれる工程では、複数の企業が連携することで、コスト削減と顧客満足度の向上を実現します。
 
サプライチェーンは主に以下4つの工程で構成されています。
 

  1. 調達:原材料や部品を供給者から必要な量だけ調達
  2. 生産:品質管理を徹底しながら効率的に製品を製造
  3. 流通・配送:最適な経路で完成品を倉庫や店舗へ輸送
  4. 販売:市場ニーズに応じて消費者に商品を提供

 
これらの工程を管理することで、在庫過剰や不足を防ぎ、製品を市場に供給しています。
 

サプライチェーンリスクによる3つの現状

1.国際関係の緊張によるリスク

世界各地で発生する政治的緊張や紛争により、グローバルなサプライチェーンの脆弱性が明らかです。
 
脆弱性を示す例として、米中対立やロシアによるウクライナ侵攻が挙げられます。
 
米中間の貿易摩擦は、半導体や通信機器といった産業基盤を支える重要分野のサプライチェーンに影響を与えました。
 
この経験を踏まえ、多くの企業は特定国への過度な依存を見直し、東南アジアやインドなど、新たな調達先の開拓を積極的に進めています。
 

2.自然災害や気候変動によるリスク

自然災害の頻発や気候変動による極端な気象現象の増加は、サプライチェーンの各段階における物流や生産活動を阻害しています。
 
その影響は地域的な問題を超えて、グローバルな供給網全体に波及しやすいです。
 
近年は、世界各地で洪水や干ばつといった災害が増加しており、サプライチェーンの安定性を一層脅かしています。
 
地震大国である日本では、台風や豪雨、洪水なども頻繁に発生し、生産拠点や物流インフラに甚大な被害をもたらしています。
 
2011年の東日本大震災では、建物や設備の直接被害額をはるかに超えて、サプライチェーンの途絶による経済的損失が10倍以上に達したと試算されています。
 

3.景気変動や価格変動によるリスク

景気変動や価格変動は、企業の収益性や供給能力に直結するため、サプライチェーン全体の安定性を損ねる可能性があります。
 
例えば、景気後退期には需要が急減し、過剰在庫が発生する一方で、景気拡大期には供給不足が問題です。
 
また、原材料やエネルギー価格の急上昇はコスト増加を引き起こし、利益率を圧迫します。
 
リーマンショックや新型コロナウイルス感染症のパンデミック時には、需要と供給が大きく揺れ動き、多くの企業が生産調整を余儀なくされました。
 
原材料価格や為替レートの変動は、特に輸入依存度が高い業界で顕著な影響を及ぼします。
 
例えば、円安進行時には輸入コストが増加し、製品価格への転嫁が難しい場合には利益率が低下しやすいのが特徴です。
 

サプライチェーンを多様化する3つの必要性

1.競争力の向上(他社との差別化)が期待できる

グローバル市場において、供給リスクの分散やコスト削減、迅速な市場対応を実現は競争優位性の確立に不可欠です。
 
1つの供給源や地域に依存するサプライチェーンは、自然災害や地政学的リスクなどの外部要因による混乱に対して脆弱性を抱えています。
 
サプライチェーンを多様化することで、これらのリスクを分散し、より安定した供給体制を構築できるでしょう。
 
また、複数の調達先を確保することで、価格交渉力が高まりコスト競争力の向上につながるだけでなく、市場の需要変動に対しても柔軟な対応が可能です。
 
サプライチェーン管理の事例として、「花王株式会社」の取り組みが挙げられます。
 
「花王」は国内外1500種類以上の商品情報をデジタルプラットフォームで統合管理し、在庫の最適化と迅速な出荷体制を構築しました。
 

2.消費者ニーズへの対応(お客様の多様な要望に応える)

現代の消費者は、かつてないほどの期待を製品やサービスに持っています。
 
例えば、「迅速な配送(即日配送、時間指定など)」「カスタマイズ可能な商品」「環境に配慮した製品」など、個別化されたニーズです。
 
そのため、企業は従来の大量生産・大量消費モデルではなく、多品種少量生産(顧客の要望に応じて少量ずつ商品を生産する方式)や柔軟な供給体制へと移行する必要があります。
 
消費者ニーズの多様化は、デジタル技術の発展によってさらに加速しています。
 
インターネットとデジタル技術の普及により、消費者は膨大な情報にアクセス可能となり、自分に最適な商品やサービスを主体的に選択するようになりました。
 
この結果、企業は顧客ごとの細かな要求に応えることが強く求められています。
 

3.地政学的リスクへの対策(国際情勢の変化への備え)

昨今の国際情勢において、特定の国や地域に依存したサプライチェーンは大きな課題に直面しています。
 
政治的・軍事的緊張や経済制裁、貿易摩擦などの地政学的リスクは、企業の供給網に深刻な影響を及ぼすためです。
 
輸出入規制や物流ルートの遮断が発生した場合、一極集中型のサプライチェーンでは代替手段が限られ、企業活動が大きく停滞してしまいます。
 
ウクライナ危機では穀物や資源の供給途絶により、多くの企業が事業継続の危機に直面しました。
 

調達先の多様化を進めている「日立製作所」の成長性は?

日立製作所は、「サプライチェーンの強靭化」を経営課題と位置づけ、柔軟かつ回復力のあるサプライチェーン構築を進めています。
 
人権侵害防止や温室効果ガス削減などの社会課題に取り組みながら、地域ごとの特性に応じた調達戦略を展開しています。
 
取り組みの一環として、デジタルツールを活用したサプライチェーン最適化サービスを提供し、効率性と透明性の向上を実現しました。
 
さらに、調達先の多様化を通じて、供給リスクの軽減と収益基盤の強化を図っています。
 
2024年度までに1兆円規模の成長投資を行い、「GX(グリーントランスフォーメーション)」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」需要に対応する事業拡大を進めています。
 
これにより、主要セクターで年平均5~7%の売上成長率を目指しています。
出典:HITACHI|2024中期経営計画 進捗発表
 

まとめ

今回は、サプライチェーンの多様化とリスク管理が企業価値に与える影響を解説しました。
 
企業の持続的成長には、柔軟なサプライチェーン構築が不可欠です。
 
「日立製作所」の事例では、GXやDX需要に対応する事業拡大を進め、主要セクターで年平均5~7%の売上成長率を目指していることがわかりました。
 
今後は地政学的リスクや気候変動の影響がさらに強まることが予想され、サプライチェーンの多様化と強靭化が企業の競争力を左右するでしょう。
 
投資家は、企業のサプライチェーン戦略への取り組みと具体的な成長目標を、投資判断の評価指標として注目すべきです。
 
こうした企業価値の変化を読み解き、投資機会を見出すための実践的な投資手法があります。
 
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